クロベ


朝からすでに日差しがきつい。
今日も暑くなりそうだ。
家を出て駅までの途中の商店街をだらんだらんと歩いていると、ササヤ食堂の横の空き地で寝転がる番犬クロベと目が合う。
クロベは黒のラブラドールの成犬オス。
『よお、これからは真っ黒なお前には辛い季節だなあ』 と僕が言葉をかけると、彼はさもつまらなさそうに軽く頭を上げて 『俺の兄弟は沖縄にもハワイにもいるが皆元気だ』 という。
『しかし正直、その黒の毛皮は暑いだろうよ』
『生まれつきだからなあ、慣れりゃあどうってことないぜ。 それよりこの暑いのにお前らのスーツ姿のほうがよっぽど気の毒だよ』 と逆にねぎらいの言葉を受ける。
『それでも一度は黒より白のほうが良かったなあと思ったことあるだろう』
『いや無いね、正直。 誇り高き黒だよ。 白ラブのゴンタなんて「けっ!」って感じだぜ』
『おお、クロベ、男だねえ』
『おう江戸っ子よ』
『ホントかー?』
『嘘だよ、よく知らねえよ』 クロベはまた頭を下げてごろんと横になった。
『誇り高いわりにはいいかげんな奴だなあ』 と僕は黒々とした背中にセリフを吐くと、
『さっさと会社とやらに行って、しっかり汗流して働くんだぜ』
黒い太い尻尾がぱたーんぱたーんと緩やかに揺れた。