sudden fictions

 はらぺこロドリゲス

夜明け前からパン職人のロドリゲスはパンを焼き始めます。 朝日がさし始める頃には、焼きたてパンのほんとうにいいにおいがロドリゲスのパン屋に充満して、店の外にもあふれてゆくのです。 みんなはこの香りを待ちきれずにロドリゲスの店にパンを買い求めに…

 Duck Grass

“異国の地でもさびしくないように・・・ ” そう書かれた君からのエアメールで届いた植物の種。 それを下宿している部屋から窓下の花壇へこっそり播いたのは夏前のことだった。 “どの時期に播いてもいいよ” と手紙には書いてあったけれど、播いてからいっこうに…

 踊り場にて踊れ!

引越しの荷物をのせたトラックに僕たちも乗り込んで、たどり着いた先は古い洋館であった。 昔の博物館のようなどっしりした階段が自分の家にあるのがなんとも驚きで、しかもその途中にある無駄に広い踊り場が不思議な存在だった。 父もこの踊り場に興味を持…

  『 みんな良い子 』

で、今日作った方のお話です。 鋭く世相を斬っています(大嘘) - 『 みんな良い子 』 『悪い子はいねがーっ・・・悪い子はいねがーっ・・・』 朝から相棒であるトナカイの佐藤君が何やらぶつぶつとつぶやいている。 『何してるの?佐藤君』 佐藤君は、ぶっきらぼ…

 『 にぎやかなおくりもの 』

以前にどこかで書いたかもしれませんが、私、お友達とユニットを組んで豆本を創作しています。 でも挿絵も装丁も全部相方がやってくれていて、私はちょろっとお話考えるだけなんですわ・・・ 出来上がった豆本はそれはそれはなかなかの出来ばえで、手前味噌です…

 な行のおはなし

なぜだかわからないけれど、そこにいくとキミに会えるときいたんだ。 に せもの? にせものでもいいよ。 キミの声がきけるならば。 ぬ れたせかいのまんなかで、ただひたすらキミをまつ。 あの頃のままのキミをまつ。 ね じをギリギリ巻きながら。 きょうも…

夏なんて何が楽しいんか

三匹の猫が駐車場の蔭でゴロゴロと涼みながら世間話をしていた。 三毛猫のミケが言った。 「うちのご主人様が、もう夏は終わってしまった・・・とがっかりしてなさる」 キジトラ猫のキジがいった。 「うちのケンちゃんも、夏休みが一年くらいあったらいいのに・・…

南からの風 (その2)

(その1) http://d.hatena.ne.jp/COLOC/20081029/1225286757 の続き。 - 我が家にやってきた2匹の犬について、最初、どちらがサンソンでグードなのかよくわからなかった。 「あなたはサンソンかしら?それともグード?」 と失礼なことを本人(犬?)に聞い…

イワシ食堂通信(仮題) その3

その1 http://d.hatena.ne.jp/COLOC/20080123/1201091359 その2 http://d.hatena.ne.jp/COLOC/20081109/1226211441 の続きです。 - ひさしぶりにさわやかに目覚めた朝、私はいつものように牛乳を飲もうと冷蔵庫をあけた。 はらり・・・ 一枚の紙切れが私の…

虹割梅酒

いなかのばあちゃんが5年物の梅酒を送ってきてくれたので、友人サラミにおすそ分けを持って行く。 サラミの家は峠の三本杉のすぐ近く。 赤いレンガに緑のとんがり屋根だからすぐわかる。 呼び鈴のひもを引くとサラミがすぐに顔を出した。 「やあカルパス、…

早く家に帰ろう

早く家に帰ろう。 キミの好きな辰摩屋のコロッケも買ったし。 電車の中で、本を読もうとカバンを開くと、ほわっとコロッケの良い香りがひろがる。 となりのおねえさんが、鼻をくんくんさせた。 少し、ハズカシイ。 本開くと、ここでもコロッケの香りがする。…

ダメな話

「俺の友人のAには霊感があって、しばしば夢で金縛りにあうらしんだけど・・・ *1」 彼とは初対面なのだが、私の目をじっと見てゆっくりと話し始めた。 「Aが言うには、この前の金縛りは最高に強烈だったらしい」 「ほうほう」 「寝入りばなのいつもの金縛りに…

哀愁のペンギン座

「えーっと、あれがペンギン座。 わかる? あのちょっと黄色っぽく光ってる星が眼の部分でー」 とキミは指差しながら説明してくれるけれど、全然わからなかった。 「見えないよ、ぜんぜん。ほんとにペンギンのかたちしてるの? そんな星座、聞いた事無いよ」…

 残像

「駅へ行くんはこの道を行く方が早いわ」 地元の彼女が言うのだからそうなのだろう。 僕は彼女のあとをついて歩く。 春というより、もう夏も近い陽気だ。 「バイパスかなんかしらんけど、新しい道ができてん、ここ」 たしかに、途中で道が急に立派な2車線に…

旅する冬の図書館

桜の花びらが時折の風で猛烈に散っていくのが窓から見える。 「残念ながら今日でこの町を離れることとします」 一人しか居ない館長兼司書兼珈琲当番の小さな彼女はぺこりと頭を下げた。 「そうでしたね、ここは旅する図書館でしたね・・・」 わたしもつられてぺ…

クりとクラの突撃レポート

「こんにちは、クリでーす」 「クラでーす」 「今回の突撃レポートは、秋の味覚キノコ狩りを楽しむです」 「すごい山ん中来ちゃいましたねえ」 「とりあえず、このへんのキノコはだいたいどれでも食べられるということですので、ふたりで競って見つけて、美…

無題

しかしもちろん、私は非血人が異種の音楽を創作し始めたことに対して、特に疑問を抱きはしなかった。 私は “彼らがやがて失望することにならなければいいのだが・・・” と思い、 時間が過ぎてやはり、“なぜこんなことになってしまったのか?” という彼らの嘆き…

星へ帰る星

クリスマスに叔父さんからプレゼントが届いた。 叔父さんは船医で、残念ながら毎年この時期には航海中だ。 でも遠い国から忘れずにプレゼントを贈ってくれる。 見たこともない切手が貼られたその箱は、小さいけれど少し重い。ワクワクしながらゆっくりと開け…

ボクがキミに何かを買って帰るということ

キミに何かを買って帰る。 それはボクの心の余裕のバロメーターとでもいおうか。 何かとは? たとえば・・・ STABILOの色鉛筆であったり (ただしバラ)、 BOLA-BOLEのショコラ・シューであったり、 シマウマ柄の付箋であったり、 蜂味堂のみたらし団子であった…

狭い路地を抜けると・・・

狭い路地を抜けると・・・ 知らなかった広場があって、何かの屋台が出ていて、いい匂いをさせている。 屋台ののれんには赤地の布に「たこ焼」の文字。 結構な行列で人気のようだが、なんだか客層が小さい。 よくよく見ると近所の犬や猫たちが並んでいる。 さら…

ゴンとトナカイ

12月がせまると町がそわそわし始めます。 クリスマスが近いのです。 さて、とある一軒の家の玄関先に光るトナカイの置物が設置されました。 そのトナカイはちょっとねむたい目をしていましたがオシャレな首輪をしていて、立派なそりをひいていました。 そし…

イワシ食堂通信(仮題) その2

その1 http://d.hatena.ne.jp/COLOC/20080123/1201091359 の続きです。 - 一方、彼女のいる世界をこちらとするならば、むこうの世界でも波紋が広がっていた。 町の広場で、一羽のペンギンが腕をパタパタさせて必死に皆に話しかけていた。 「確かにあの冷蔵…

 南からの風

そして今日も丘の上に立つ古家のベランダから町を見下ろす。 先週あたりからいつもと少し風向きと風質が変わり始めたような気がする。 何かの変化を予兆する出来事だ。 北北東から吹くやや湿った風を、皆は洗濯物の乾きが悪いだのなんだのとあまり好んではい…

無理なものは無理っ

今日の校長の朝礼のお話は気合が入っている。 「何故努力をしない! 君たちはやればできるんだ! 頑張ればどんな世界へでも飛び立てるんだ!」 “いや頑張っても飛べないものは飛べないって” 朝礼中、ダチョウの竹田もペンギンの山岸もニワトリの錦戸も心の中…

 ★ずるい兄

玄関を開けるとそこには兄が居た。 「よお、ひさしぶり」と漂々とした顔で私に微笑みかける。 「ほんま、ごっつ、ひさしぶりやねえ」と兄を中へ招き入れた。 「どない? 元気にしてんの?」ふわりとソファに座り、兄がいう。 「そっちこそ、どうなん?」 「…

★Wisteria Waltz ; 藤色ワルツ

地球温暖化だかなんだか知らないが、いよいよ地球がやばいよという状況になってきた。 何でもかんでも空や海にたれ流したって、地球君のふところの広さで何とかしてくれる・・・と思っていたのだ、昔の人は。 でもさすがに地球君も「いやもうダメっす。これ以上…

★シンクの神様

仕事に行き詰まった。 もうこれっぽちもまともなアイデアが思い浮かばない! 私はおもむろに立ち上がり台所に向かった。 そしていつものようにシンクを磨き始める。 こうすることで何かがつかめる時がある。 創作なんてそんなものだ。 ナイロンたわしで意地に…

★『青空への祈り』

夏の勢いはすっかり息をひそめたものの、さえない天気が続いている。 そのさえない天気に引きずられてさえない気分でいると、Kから電話があった。 明日晴れそうだから映画を見に行こうという。 「晴れそうだから映画なの?」と私は腑に落ちない点をKに尋ね…

★風鈴ころころ(仮題)

お盆を過ぎてもまだまだ暑い日が続く。 少し秋の気配でも見えないかしらと縁側で空を見あげてみる。 ぎらり、日ざしはまだまだ元気なようだ。 やれやれ、そう思った瞬間、“ピンポーン!”と玄関の呼び鈴が鳴った。 誰かしら。 ドアを開けるとここらでは見慣れ…

★アイオツナギトメル

昨日の徹夜の疲れもあって今日は夕方早々に会社を出たが、つい電車を一駅乗り越してしまう。 家まではまあ歩ける距離だし健康のためと、初めての道だが家の方向をめざしている歩く。 途中普通の住宅地の一角に奇妙な建物を見つけた。 どっしりとした赤く塗ら…