狭い路地を抜けると・・・



狭い路地を抜けると・・・
知らなかった広場があって、何かの屋台が出ていて、いい匂いをさせている。


屋台ののれんには赤地の布に「たこ焼」の文字。
結構な行列で人気のようだが、なんだか客層が小さい。
よくよく見ると近所の犬や猫たちが並んでいる。
さらによく見ると、どうやって抜け出たのか我が家の愛犬ゴンも並んでいる。
「お前もたこ焼食べるの?」と言うと、<当然!>という顔をしてから「横入りはダメです、ちゃんと並んでね」 と飼い主に対してしっかりと主張する。
「ちぇーっ」 としぶしぶ後ろに並ぶ。
一番後ろは見覚えのある雉猫だった。
「やあどうも」 とあいさつをしてから、
「たこ焼、よく召し上がるんですか?」 となぜか敬語でたずねたりしている。
「ええ、ここのは猫舌の私でも食べやすいような熱さにしてくれるので」
なるほど、細やかな気配りだと妙に納得する。
まだ最後尾なので誰が焼いているのか人の姿が見えない。 
もっともこの調子だと、人が焼いているのかどうかもわからないんだけど。
しかし意外と早くに列は進む。
犬と猫と猫と犬と猫の次が私というところまで来た時、たこ焼を焼いている者の姿が見えた。 
意外なことに若い女の子だった。
彼女は私の顔を見て 「あれー人間だー」 という。
それはこちらのセリフだ。
どうして犬猫相手にたこ焼焼いてるのかと聞くと、「うーん、何となく」 というアバウトな返事。
代金はどうしてるの?と聞くと、「まあ趣味だから、別に」 といって「でもたこ焼と引き換えに、にくきゅうを触らせてもらってるの」 という。
「にくきゅう?」
「そう、肉球。 ぷにぷにして気持ちいいの」 とたいそう嬉しそうだ。
「僕の手は肉球無いんだけれど」 というと、大変残念そうに「じゃあ100万円ね」 といって手を出す。
「うそよ、またゴンちゃんと一緒に来てちょうだい」 とにっこり笑う。
そして僕もたこ焼をいただく。
でっかいタコの入った、ちゃんとしたたこ焼きだった。
近所の犬や猫が「最近、どうよ?」とか言いながら、爪楊枝でたこ焼きを食べている姿が妙に可笑しかった。


路地の向こうには必ず不思議空間がある。
いつもたどりつけるとはかぎらないけれど。