早く家に帰ろう
早く家に帰ろう。
キミの好きな辰摩屋のコロッケも買ったし。
電車の中で、本を読もうとカバンを開くと、ほわっとコロッケの良い香りがひろがる。
となりのおねえさんが、鼻をくんくんさせた。
少し、ハズカシイ。
本開くと、ここでもコロッケの香りがする。
読みかけの物語はクライマックスに向かっていた。
『英雄アンドレアスの放った銀の矢は、一直線に宿敵コロッケに突き刺さる・・・』
“えっ? 宿敵コロッケ?”
いやいや、宿敵ケロッグだった。 目の錯覚、目の錯覚・・
“ケロッグ船長のコロッケ” そんなタイトルがふと思いつく。
ケロッグ船長はコロッケが大好きなので、料理人は毎日、ジャガイモの皮むきで大変!!
そんなお話もいいなあと思い始める。
忘れないうちにメモしとかなきゃ。
ボクはメモ帳を出そうとカバンを開くと、再び、ほわっとコロッケの良い香りがひろがる。
少しして、となりのおねえさんのおなかが “ぐう” と鳴ったのを聞き逃さなかった。
そうこうするうちに電車は駅に着く。
早く家に帰ろう。
ボクは自転車をこぐ。
早く家に帰ろう。
まだコロッケがさめないうちに。
早く家に帰ろう。
そして、ケロッグ船長と“ぐう”なおねえさんの話をキミにしてあげよう。