sudden fictions

★絆の話

こう毎日暑くては食欲すら出ない。 できれば朝昼晩と3食ともプリンで済ませてしまいたいところだが、さすがにそうもいかない。 気を取り直して、そうめんでもゆでるが、ゆでている最中の暑さでまた生気が失われそうになる。 冷たい氷水でざぶざぶと冷やす。…

★コサギ先生

ここの川はあまりきれいな水ともおもえないんだけれども、それでも時々魚が跳ねるのを目にすることがある。 そんなこの川の夕暮れ時の景色を私は結構気に入っている。 そして週二回の塾講師のアルバイトの前にはこのコンクリートの堤防に座って、川の流れを…

仮免の魔法使い

10歳になったので魔法の仮免許がおりた。 僕の母さんは魔女だ。 由緒正しい魔女の家系だったそうな。 古くは西洋に起源を発するらしいが、ボクも母さんもどこをどう見ても正しい日本人だ。 しかし、残念なことに我が家は男の子(つまりはボク)しか授からな…

そして僕たちは再びあの鹿の世界へ帰る

「お姉さん、お姉さん、いいのが揃ってますよ、しかし」 奈良町を散策中の私を誰かが呼んでいるようだ。 振り向くと路地陰から鹿が顔を出し、私を呼んでいる。 「姉さんったら、いいのが揃ってますって、しかし」 「えっ、そうなの?」 何が揃っているのかも…

In other words,

独り者でいつも飄々としていた叔父が、しばらく日本を離れるという。 その間、叔父の住むマンションの部屋の管理を僕がまかされることとなった。 僕としては決して安くない下宿代が浮くので大層ありがたい話だ。 基本的には叔父の部屋には普通に設備が揃って…

珈琲豆の精

ふうっ、やっとひと仕事片付いた。 さあ、こんな時の為に友人から送ってもらった、とっておきの珈琲をいれよう。 ほんとはその友人もお茶に呼びたいところだけれど。 この珈琲、何やら関西ではディープなファンがいるといわれている幻の珈琲豆屋さんの豆らし…

走馬灯しゃっくり

しゃっくりを100回したら死ぬと言われているが、もう80回くらい続いている。 「ひっく!」 不思議なことにしゃっくりをするたびに昔のことを思い出し、だんだんと軽やかな気分になっていく。「ひっく!」 辛かった会社のことから、 「ひっく!」 あの人…

澄んだ春の夜空に

コボルからメールが入った。 - 今日、春の獅子座流星群を観る会開催 集合場所:ナナカマドの丘 集合時間:午前2時 おやつ:500円まで - ワタシはすぐさまコボルに返信する。 「バナナはおやつに含まれますか?」 そして再びコボルからメール。 「バナナはお…

サヨナラ

ポカ、ポカ、ポカ! ポカ、ポカ、ポカ!春のご陽気な表現ではない。誰かが僕の頭をたたいているのだ。 「こら、起きろよ、いつまで寝てんだよ」 「・・・・・・・・いつまで寝てんだよ」 「・・・・・・・・・・・・寝てんだよ」 ポカ、ポカ、ポカ! 「ユカ…

ヤマネコ注意!

ある日の帰り道、近所の公園の脇を歩いていると、 「いたずらヤマネコ注意! 三日月町内会」 の立て札が。 なんだこれ、と思いながらも家へ帰ると、弟が泣きふせっていた。 その弟のおでこにはへたくそな字で「肉」と書かれていた。 「なんだ、いまどきまだ…

  イワシ食堂通信(仮題)

「誰だ!私のプリンを食べたのは!」せっかく苦労して買った超人気なマダム・アンダルシアの「とろけるロイヤル皇帝プリン・グラッチェ」が無いじゃない! 絶対に許せない・・・ 最近、どうも冷蔵庫の中のものが微妙になくなっているような気がしていたのよ。 …

  Lucky Egg

今年もまた、のほほんと年が明けた。 「新年、明けましておめでとうございま〜す♪」 テレビの中はおめでとうの嵐だ。 「ほんま正月ってろくな番組やってへんなあ」と僕が不満を訴えると、「そういうのが正月なんよ」と彼女はもっともなご意見を僕に投げ返し…

  シベリアからの使者

じんぐるべー、じんぐるべー、すずがーなるー♪はかどらない卒論研究で徹夜してから、引越しのアルバイト(クリスマスの日になんか引越しすんなよ)で年下のバイト長にこき使われ身も心もボロボロになって、ようやく安らぎの下宿をめざす。 本日は12月の25日…

   When I'm sixty-four

12月にだけボクは商店街の花屋さんに顔を出す。 もはや顔なじみの店員さんには「春も夏も秋もいろいろきれいな花はありますよ」といつも言われるのだけれど。12月10日、ボクはキミの誕生日に赤のシクラメンの鉢植えを買って帰る。 12月24日、ボクはクリスマ…

  サンたさんえ

ことしもぼくのいええきてくれなくて とてもざんねんです。 おとうさんは ちゃんとサンたさんわプレぜントをおいていってくれたよ といいましたがあれわうそです。 きかんしゃトーメスのおもちゃは おとうさんがくれたものです。 よる おとうさんが おいてい…

  ボクを選んでくれたヒト

見られている。 さっきから何度もこの人にじっと見られている。 「なんだか、おもしろいなあ、おまえ」その人はボクを見ながらぽつりと言った。 この人はボクをどうしたいんだろうか? ボクのことを気に入ってくれたのだろうか? ボクの兄弟のうち、出来の良…

  クリとクラの出張お誕生日会

朝起きるとママはもう出かけるところだった。 ママは「コウくんごめんね」とだけ言って仕事に行ってしまった。 今日は僕の誕生日。 でもこんなことはもうなれっこ。 ボクも「だいじょうぶ」とだけ言ってママをみおくった。 別に悲しいわけでもない。 けどほ…

  観覧車の夢

君の夢をみた。 僕たちは大型のショッピングモールに作られた真っ赤な巨大観覧車に乗ろうとしている。 大した行列もなく列はすんなりと進んでゆく。 前後のカップルが楽しそうに話しながら手をつないでいたので、僕たちもあわてて手をつなぐ。 やはり君の手…

  ソラミミと虹のバナナ

ソラミミ それはわたしが昔々に飼っていた犬の名前。 今では珍しくなりつつあるが、当時はあたりまえの白い雄の雑種だった。 特徴はその大きな耳。 「その大きな耳で空も飛べそう」ということで母が命名した。 そのネーミングのセンスのよさにわたしは母を少…

  ススメ、スズメ!

『ススメ スズメ スズナリノ ススキノホ スリヌケ』 漢字で書くとおそらくこうだろう 『進め、雀、鈴生りの、薄の穂、すり抜け』 これは、ある日ある公園である老人に教えてもらった呪文。 ここ数日は何もかもうまくいかない日が続いている。 依頼されていた…

  Wing

「いつか君が欲しがっていた、永遠の翼をあげるよ!」 いきなり乙女のアパートにのりこんできたTさんにまじめな顔でそう言われた時、私のハートはときめいた… いやいや、そんなはずはない。 間違ってもない。 >、と正直思った。 Tさんはサークルの先輩で、大…

  魔法のレンジ

夏のボーナスが無事支給されたので、妻のたってからの願いにより最新式の電子レンジを購入した。 この最新式はなんだかよくわからないが、スチームなんぞが出て揚げ物の無駄な油も落とせて大変健康的であるらしい。それにしても届いたばかりの真っ赤なレンジ…

  未来の発明家

娘が台所のテーブルで夏休みの宿題をしている。 「今年はまじめにやってるなあ」と私が声をかけると、「今年はめんどくさいことはさっさと終わらせて心置きなく遊びまくるつもり」と平然として答える。 「で、今はなにやってんの?」 「作文。 将来なりたい…

  世界の果てのアリ

「アリはすごいのよ・・・」 ぽつりと彼女は言う。 「たとえば、何を間違ったか私の体を上へ上へと登ってきたアリが私の指先まで到達するの。 その存在に気がついた私が指先のアリをふっと吹き飛ばした時、彼は地面にひらりと着地してから再び何事も無かったか…

  クロベ

朝からすでに日差しがきつい。 今日も暑くなりそうだ。 家を出て駅までの途中の商店街をだらんだらんと歩いていると、ササヤ食堂の横の空き地で寝転がる番犬クロベと目が合う。 クロベは黒のラブラドールの成犬オス。 『よお、これからは真っ黒なお前には辛…

  ぐんにゃり

ときどき頭の中が瞬間的にぐんにゃりすることがある。 何というのか、ジェットコースターが下り始める感じというか、まあそんな感じ。 ちょっと軽目の貧血?その程度に思っていたが、最近すごい事実に気がついた。 この私の頭のぐんにゃりが、どうやら世界の…

  世界の果ての書架

「ようこそ世界の果ての書架へ」 古ぼけたフロイト 『夢判断』 氏が僕をすまなさそうにむかえてくれた。 僕は新刊 『夢見る鹿の見る夢は』 である。 ジャンルはSFなのに、司書がなにをどう間違えたのか、僕を哲学系に分類してしまい、 『夢判断』 さんのお…

  You are the one

You are the one who makes me happy♪ 彼女は部屋を掃除しながら口ずさむ。 カーペンターズの歌だ。 これは彼女の機嫌がいい証拠。 「お掃除です。そろそろそのソファーをあけていただけますかしら、You are the one?」 彼女は僕の目をじっと見て言う。 はい…

  2段目からの旅

初めて我が家の子供部屋に2段ベッドがやってきた。 「僕が年上なんだから僕が上のベッドだ!」という兄ちゃんの理不尽な要求を何とかかわして、毎晩、寝る前にジャンケンをしてどちらが上で寝るか決める事になった。 やっぱりどうせなら高いところで寝なき…

  僕とフリオと校庭で

校庭の一段高くなった土手に僕とフリオは並んで座り、少し離れた野球部の様子を眺めていた。 グランドでは他校との練習試合が行われているが、どうやらわが校の旗色が悪いようだ。 「やっぱり相変わらず制球が定まらんなあアキは」と僕がつぶやくと。 「ラン…