ヤマネコ注意!


ある日の帰り道、近所の公園の脇を歩いていると、
「いたずらヤマネコ注意! 三日月町内会
の立て札が。
なんだこれ、と思いながらも家へ帰ると、弟が泣きふせっていた。
その弟のおでこにはへたくそな字で「肉」と書かれていた。
「なんだ、いまどきまだ『キンニクマン』ごっこなんかしてるのか?」とバカにすると、
何でも公園の土手の草むらからいきなり現れたヤマネコの「ヤマネコ・ビーム!」というのを受けると動けなくなり、おでこに字を書かれ消えないという。
「屈辱的だ…」と絶望に打ちひしがれながらもかなり間抜けな姿の弟。
さすがに気の毒になり何とか弟の仇を取ろうとヤマネコを探すことにした。
とりあえず立て札を立てた町内会長さんの所へ行く。
町内会長さん曰く「不幸の手紙をみんなの家のポストに配るわ、老人の背中に「バカ」の張り紙はするわ、道端にバナナの皮は捨てるわ、相当困っているんじゃて」
「うーむ、それはかなりのワルぶりですねえ」と私も同意する。
こうなったら、捕まえてとっちめるしかない。
よく出没するという公園にマタタビの粉をまいて、土手に隠れて様子をみた。
「ヤマネコといえども猫でしょうから、マタタビでメロメロにはずです」と私は一緒に来た町内会長さんに説明する。
すると現れたヤマネコは周囲の匂いをかいでから、何やらダンボールのきれっぱしに字を書いて立て札を立てて去っていった。
立て札には
<< ヤマネコは「きなこ団子」が好き >>
との文字。
仕方なしに、私は弟に角のうさぎ屋へ「きなこ団子」を買いに行かせ、その団子にマタタビパウダーを仕込んで再び公園のベンチにセットした。
今度こそ、ヤマネコはメロメロのはずと、私と弟と町内会長は土手から様子を観察する。
するとしばらくしてあらわれたヤマネコは、きなこ団子をふんふんと匂いをかぎながらもうまそうに食ってしまった。
しかもそのあとでラジオ体操第二をしてすこぶる元気そうである。
「全然マタタビが効かんですなあ…」と我々が途方にくれていると、「何をしょぼくれとるんじゃ」と町内最高齢にして最強のきみこばあちゃんが現れた。
町内会長さんが、かくかくしかじか…とヤマネコの話をすると、きみこばあちゃんは「なんね、そげなこと」と言い、元気そうにラジオ体操第二をしているヤマネコに向かって
「&#$盞癨Ф癈癬黌黝齦齣鼾К!!!!」と謎の呪文をとなえだした。
するとヤマネコは「うおっ、れれれ」と叫びながら、同じ場所をぐるぐるぐるぐると回り始めたのだった。
「うええ、足がとまらねえ。助けてくれえ」とヤマネコは悲壮な声を出すと、
「この、ばちあたりのいたずらヤブイヌが!」ときみこばあちゃん。
ヤブイヌ???」と我々3人が顔を見合わせていると、ヤマネコの毛皮がぺろんとはがれて眉間に立て筋の入ったやや貧相な生き物に変身した。
ヤマネコは実はヤブイヌだったのだ。
どうりでマタタビが効かない訳だ。
ヤブイヌはさんざんぐりんぐらんと歩き回らせられゼーゼーいっている。
きみこばあちゃんによると、昔々はこのヤマネコと称するいたずらヤブイヌがよく出没していたらしく、きみこばあちゃんのばあちゃんがよくこの謎の呪文で退治していたらしい。
我々はこのいたずらヤブイヌを、二度といたずらをしないことを条件に許して逃がしてやることにした。
「いやいやどうもどうも、失礼致しますです、はい」とヤブイヌはぺこぺこしながら草むらへと消えていった。
弟のおでこのらくがきもいつの間にか消えていた。
「ではこれにて一件落着ということで帰りまひょか」と言った町内会長さんの背中には
<< なめんなよ by やぶいぬ >> 
の張り紙がぶらさがっていた。