澄んだ春の夜空に

コボルからメールが入った。

                                                                • -

今日、春の獅子座流星群を観る会開催
集合場所:ナナカマドの丘
集合時間:午前2時
おやつ:500円まで

                                                                • -


ワタシはすぐさまコボルに返信する。
「バナナはおやつに含まれますか?」 
そして再びコボルからメール。
「バナナはおやつに含まれません。水筒にカルピスもOKです」
ああ、午前2時まで待ちきれない。ワタシは気分をおちつけるために甘いスコーンを焼くことにした。
このスコーンはおやつになるんだろうか。ワタシは再びコボルにメールしようかと思ったけど、今度こそおこられそうなのでやめた。


午前1時半、家を出発。
春の桜の花もすっかり散っちゃったけど、夜はまだまだ寒い。
毛糸のマフラーをぐりんぐらんと巻いて、いつもの青い帽子をかぶる。


ナナカマドの丘に到着。
コボルが懐中電灯をちかちか光らせ、ワタシを呼ぶ。
「今日は絶好の観察日和さ、空気も澄んでいる」 コボルの声がはずんでいる。
「流星が見えるの?」
「そうだよ、春の獅子座流星群さ、今日がピークだよ。もう少しずつ流れはじめているよ」
「えー、どこ?」
「獅子座のレグルスを探すんだ」
コボルはえへんとせき払いをして、ワタシに教えてくれる。

「北斗七星をまず見つける。ひしゃくのえの部分に4つの星が少し曲がって並んでるだろ。 この4つを結んだ曲線をカーブなりにぐいーんと伸ばすと、うしかい座のアークツールス、おとめ座のスピカにつながり、これが春の大曲線と呼ばれている。」
「アークツールスなんてすごくかっこいい名前だね」
北極星はどこにあるかわかるよね?」
「たしか北斗七星の右側の2つの星を5倍だったっけ、のばすと北極星が・・・あああれだね」
「そうそう、今度はそれとは逆方向にずっと伸ばすと見えるのが獅子座の1等星レグルスさ」
「うん、あれだあれだ。あれがレグルス」
「そして、獅子座のしっぽにあたる2等星のデネボラと、アークツールス、スピカをむすぶのが春の大三角形さ」
そういって眺めている間にも、その三角形から星が流れ始めた。
流れるたびにサーッ、シューッとでも音がしそうなほど見事な流れっぷりだ。
しばしワタシたちはその流れっぷりに酔いしれた。
ワタシはごそごそとリュックから小さな折り畳みのテーブルを出し、スコーンをお皿にならべ、マグカップにホット・カルピスを注いだ。
二人でスコーンをつまみながら流星の曲がれを見つめ 「ああ、ぜいたくね」、「うん、ぜいたくだ」と言い合った。


そしてしばらくしてワタシは「あっ!」 と叫んだ。
「どうしたの?」 とコボルが心配そうにワタシの顔を見た。
「バナナ…忘れちゃった…」
コボルはそれを聞いて大笑いをした。
ワタシは本当に流星を見ながらバナナを食べたかったので泣きたい気分だったが、あまりにコボルがおかしそうに笑うのでつられて二人で大笑いした。


澄んだ夜空に笑い声が響く。
彗星はまだまだ流れている。