僕とフリオと校庭で


校庭の一段高くなった土手に僕とフリオは並んで座り、少し離れた野球部の様子を眺めていた。
グランドでは他校との練習試合が行われているが、どうやらわが校の旗色が悪いようだ。


「やっぱり相変わらず制球が定まらんなあアキは」と僕がつぶやくと。
「ランナーが塁に出るととたんにフォーム崩れんねん。 牽制球へたやし、クイックモーションもでけへんし。 前々から言うてたんやけどな。もっとちゃんと教えとくんやったなあ」とフリオ。
「まあピッチャーのアキよりキャッチャーのツヨシの方はちょっときびしいなあ」と僕。
「まあキャッチャーは実戦で覚えていくところがあるし。今は球捕るので精いっぱいやな。おまえがもっとちゃんと後輩に指導せんからや」と言うアキに、
「あほか、誰もこんな事態を予想してへんっちゅうに」と応戦する僕。
「そらまあ、そうや。 俺らの代わりの急造のバッテリーにしてはまあまあよくやってる方やで」
「それでも練習試合とはいえ、この相手に苦戦するようになるとは監督も思てなかったやろな。もうすぐ県大会始まんのに」
「この前まで、今年は最低でもベスト4や!と皆で言うてたのになあ」
「皆、頑張って欲しいなあ…」
「いや、やってくれるで俺らおらんでも…」


「あのー、もうそろそろいいですか?」と背後から僕らに声をかける人がいる。
そこにはひと目で天使とわかる、わかりやすい姿をした天使がいた。
「あのさあ、よくさあ、誰かの姿借りて地上に戻るとかいう話あるやん。 ああいうの無いの?」 とフリオが天使に言う。
「残念ながら、それはテレビや映画の世界の話ですね。 事故で亡くなられたお二人には気の毒ですが…」と天使はばつが悪そうに僕らに言う。
「ちぇ、マンガのような輪っか頭の上に乗せてるくせになあ」と僕。
「ほんまやなあ、全然ゆうずうのきかん奴やで、この天使くんは」とフリオ。


そして僕とフリオは天使に導かれ、野球部員の誰にも気付かれることもなく天空へと舞い上がった…