When I'm sixty-four


12月にだけボクは商店街の花屋さんに顔を出す。
もはや顔なじみの店員さんには「春も夏も秋もいろいろきれいな花はありますよ」といつも言われるのだけれど。

12月10日、ボクはキミの誕生日に赤のシクラメンの鉢植えを買って帰る。
12月24日、ボクはクリスマスに白のシクラメンの鉢植えを買って帰る。
そして12月28日、ボクはボクらの結婚記念日にピンクのシクラメンを買って帰る。
そんな習慣が長らく続いている。
どうしてシクラメンなのか、理由は忘れた。
それはもう習慣なのだから仕方がない。

「また今年もシクラメンなの?」などとキミは決して言わず、
12月10日にはアップルパイを焼いて、12月24日にはイチゴのケーキを焼いて、そして12月28日には赤飯を炊く。
そんな習慣も同じように長らく続いている。

そして今年も、3色のシクラメンの鉢植えを見ながら、二人で赤飯を食べる。
「年末に赤飯ていうのはおかしい?」
「まあ、めでたいからいいんじゃない?」とボクがこたえると、
「でも何がめでたいのかしら?」 キミはすっとぼける。
「いや、結婚記念日だから」とボクが笑ってこたえると、キミはああそうねという顔をする。
「どうしてこんな年末のあわただしい日に結婚したんだっけ?」ボクがすっとぼけると
「さあ、どうしてだったかしら」とキミもまたすっとぼける。

こんなことを来年の冬も、再来年の冬も、そのまた次の冬も、ずっとずっと。
ボクが64歳になっても、そしてさらにその先もずっとずっと。
どうして12月なのか?、どうしてシクラメンなのか?、どうして赤飯なのか?
その理由を忘れたとしても。
それは習慣なのだから仕方がないこと。
ボクとキミの習慣なのだから。
ボクが64歳になっても、そしてさらにその先もずっとずっと。