仮免の魔法使い

10歳になったので魔法の仮免許がおりた。
僕の母さんは魔女だ。  由緒正しい魔女の家系だったそうな。  古くは西洋に起源を発するらしいが、ボクも母さんもどこをどう見ても正しい日本人だ。
しかし、残念なことに我が家は男の子(つまりはボク)しか授からなかったので、ボクはイレギュラーな後継者となった。

「男の魔女はなんていうの?」 の問いに母さんは少し考えて、「単なる魔法使い…」 と自信なさ気に答えた。
母さんがいうには、「魔女だ魔法だといってもしょせん過去の産物。年々その力は衰えているわね」 ということだ。
うちは”風使い”の系列で、風を少々あやつれるだけの力しかないのだ。
「それしかできないの?」 最初ボクは母さんにそう聞いたのだけれど、「そうなのよ、それしかできないのよ」 と他人事のようににっこり笑った。
「なー、つまんねよなー」 と父さんが横から口をはさんだが、「まあ、何もできないよりはいいわな」 と母さんの視線を感じて、お茶をにごした。
さて、この魔法は何かの役に立つのかしら。
母さんは昔、隣の家に燃え移りそうな近所の火事現場で、魔法で風向きを変えて逃げ遅れた隣の家のおばあちゃんと犬を救ったらしい。
「今までそれが唯一役立ったことね。 あとは、あなたがもっと小さかった時、父さんが作った奇妙な凧がよく上がるようにピュっと風を吹き上げてあげたくらいね」
「魔物を退治するとかは?」
「残念ながら、ありえないわね」 と母さんはけらけらと笑った。

母さんが教えてくれた呪文は意味不明だが簡単なものだった。
ちょっとおへそに力を入れてその呪文を唱えるとヒュルっと弱々しい風が吹いた。
とてもハリー・ポッターのような活躍は期待できなさそうだ。
ボクは庭の木とテラスの柱の間にハンモックを吊るし、お気に入りの竜退治の本を持ってころがりこんだ。
そしてさっきよりも強くおへそに力を入れてその呪文を唱える。
ひゅーっ
風に揺れるハンモックは快適。

仮免の魔法使いとしてはまあこんなところだろう。