観覧車の夢


君の夢をみた。


僕たちは大型のショッピングモールに作られた真っ赤な巨大観覧車に乗ろうとしている。
大した行列もなく列はすんなりと進んでゆく。
前後のカップルが楽しそうに話しながら手をつないでいたので、僕たちもあわてて手をつなぐ。
やはり君の手は冷たい。
乗り込む前に、ポラロイドで記念写真を撮られる。
できあがった写真を後で買う買わないは自由。
君はにっこりと、ボクは少し緊張して被写体となる。
寒い夜だったが観覧車の中は意外と暖かい。
12月の街灯りは、それはそれはきらびやかだった。
君は自分の住むマンションを探す。
僕はただぼんやりと街の中心を見つめるが、それがどこなのかさっぱりわからない。
きっと昼間はゴミのようなところなのだろうけれど、今はただ点在する光の集合体が美しい。
観覧車は頂点を越えるとあとは下るだけの悲しい乗り物。
僕たちは特に何も話さずじっと外をみる。
僕は何かを決心して君に言葉を投げかけようとする。


そしてその瞬間に目が覚める、というお決まりのパターン。
そして何とも言えず、ひとり呆然とするのもこれまたお決まりのパターン。
「あの時、観覧車の窓の外から突然キリンが顔を出してきたら状況は変わっていたかもしれない」などとつぶやいてみる。


そんな君は友人の紹介で教師を目指す心優しい彼に出会った。
そしてその彼と一緒に小さな学校のある田舎の町へと旅立っていった。
僕はただ見送るしかなかった。
今年の年賀状には、もうすぐ母親になりますという文章が添えられていた。


さえない気分のまま僕はゆっくりと起きだしてお湯をわかし、ゴリゴリと珈琲の豆を挽いて今日の一日を始める。

案の定、気分はさえない。
たらたらとひと仕事しては、途中ゴリゴリと豆を挽き珈琲をいれる。
突然、ベランダにクジャクでも来てビックリさせてくれないものかと思う。
気分は一向にさえない。
また少し仕事の真似事をしては、途中ゴリゴリと豆を挽き珈琲をいれる。
突然、アデリーペンギンが宅配の荷物を持ってきてくれないものかと思う。


のっそりと時間が過ぎる。
夕方に忘れていたメールのチェックを入れると、どうでもいい山のようなメールの中に君からのメールを発見する。
『産まれました(^^)』というタイトル。

  ごぶさたしてます。
  連絡遅れましたが、先月、長男が産まれて私もおかあさんです。
  そしてサルのような赤ん坊を抱きながらにっこりと笑う君の写真が添付されていた。


やれやれ。

僕も 『こちらも産まれました(^^)』というタイトルでメールを返信する。
メールには、実家で産まれたジャックラッセルテリアの子供を抱きながら少し緊張している僕の写真を添付した。