ボクを選んでくれたヒト


見られている。
さっきから何度もこの人にじっと見られている。


「なんだか、おもしろいなあ、おまえ」その人はボクを見ながらぽつりと言った。
この人はボクをどうしたいんだろうか?
ボクのことを気に入ってくれたのだろうか?


ボクの兄弟のうち、出来の良い兄さん達は今日は別の所へ連れられていった。
でも知り合いにもらわれていった弟や妹もいる。
そして僕は、ぽつんと離れたところで粗雑にほったらかされている。
この人はそんな僕を拾いだしては眺めて戻して、再び拾いだしては眺めてを繰り返す。
悪い人ではなさそうだ。


「掘り出し物?」横にいた女性が尋ねる。
「わからない。わけあり品で500円均一のカフェオレボウルなんだけど」とその人が答える。
「なんだかねえ、この歪みぐあいがなんともいえず良いんだなあ。俺、性格がひねくれているのから、あまり整いすぎているのは駄目なんだ」
「まったくそのとおり」と女の人が笑った。


「これください」とボクは店主に差し出される。
ボクの創造主である店主があらためてボクをじっと見る。
「なかなかの掘り出し物ですよ」と店主はニッコリとして答え、ボクを新聞紙に包んだ。
包まれたボクは周りが見えなくなった。
でも、ふらふわに包まれて、袋の中のゆらゆらとした揺れ具合がここちよい。
どうやら彼らに連れられて、寺の境内での手作り市の会場を脱出したようだ。
「じゃあさっそく帰りにシンさんとこで豆を買って、カフェオレをいれよう」


ボクはきっと居心地のよいところへ連れて行ってもらえるような気がする。