残像


「駅へ行くんはこの道を行く方が早いわ」
地元の彼女が言うのだからそうなのだろう。 
僕は彼女のあとをついて歩く。
春というより、もう夏も近い陽気だ。 


「バイパスかなんかしらんけど、新しい道ができてん、ここ」
たしかに、途中で道が急に立派な2車線になった。
「おかげで、ここにあったお好み焼き屋はどっかいってしもたし、いつも吠えとったバカ犬のジョンの家も引っ越してしもたし・・・」


彼女は急に立ち止まって、地面を指差した。
「ここに立派な桜の木があってん。 花も終わりになると風吹いたら周りが白くなるほど大量に花びらが舞ってた・・・」
そういって彼女は残念そうに顔を上げた。


「うんうん」 僕はうなずいてから、彼女の髪に舞い落ちているであろう架空の桜の花びらを軽く払った。