★風鈴ころころ(仮題)

お盆を過ぎてもまだまだ暑い日が続く。
少し秋の気配でも見えないかしらと縁側で空を見あげてみる。
ぎらり、日ざしはまだまだ元気なようだ。
やれやれ、そう思った瞬間、“ピンポーン!”と玄関の呼び鈴が鳴った。
誰かしら。 ドアを開けるとここらでは見慣れない少年が立っていた。
「風鈴の交換に来ました。」と少年はニッコリと笑って言う。
「交換? 残念だけどうちは風鈴は出してないのよ」
すると少年はさらにニッコリと笑って「じゃあこれを吊るしてください」と風鈴を私に差し出した。
それは青く透き通る涼しげなガラスの風鈴で、風を受ける短冊にはススキとコオロギだろうか、そんな絵が描かれている。
「でもそれを吊るすのは夜に。 たった一晩だけでいいです。 それじゃ!」
そういい終わるや否や、少年は扉を閉め、私が再び開けた時には少年の姿はどこにもなかった。
“夜に風鈴?”と思いながらも夕闇が迫りだす頃を待って、私は少年が残した風鈴を縁側に吊るした。
どこからか小さく心地よい風が吹いた。
ちりん、ちりん、ちりん… 風鈴がひかえめに鳴ると
・・・りーんりーん、ころころ、りーんりーん、ころころ・・・
風鈴に誘われるようにして、庭の草むらの楽団が小さく秋を奏で始めた。