踊り場にて踊れ!


引越しの荷物をのせたトラックに僕たちも乗り込んで、たどり着いた先は古い洋館であった。
昔の博物館のようなどっしりした階段が自分の家にあるのがなんとも驚きで、しかもその途中にある無駄に広い踊り場が不思議な存在だった。
父もこの踊り場に興味を持ったらしく、 「これからここの踊り場を通るときには、必ず何かを踊ること!」 とまた妙な規律を高らかに宣言した。
それで、仕方なく僕も妹も階段を上り下りするたびに、この踊り場でクルリンと手を広げ回ってみたり、テレビで見たようなタップを踏んでみたりして、その姿を階下で見守る父や母に披露した。
そのたびに母は穏やかに微笑み、父は満足げにうなずいた。
それを見ていた愛猫のペペも、二階のベランダへ出るために踊り場を通る時は、やれやれといった感じでどこで覚えたのか妙な阿波踊りを踊って見せた。
それをかげで見ていた古くからの居候しているネズミたちも、皆が、ペペが寝静まった頃、満月の夜にはこの踊り場に集まって、にぎやかにダンスパーティを開いていた。


ある時、父が物置部屋から古い蓄音機を発見した。
そうして僕達は、回転数が定まらない古い蓄音機から流れる古い音楽にあわせて、ワルツを踊った。
もちろん、この踊り場でだ。
でもぺぺはどんな音楽が流れても踊りはいつもの奇妙な阿波踊りだった。
ネズミたちがかげから、そんなペペの姿を見て大笑いしていたのを僕も妹も実は知っていたんだ。


僕も地方の大学で勉強する為に家を離れてそれなりの時間が過ぎた。

ある時、サークルのパーティーで憧れのキミの手を取る機会に恵まれた。
「意外に踊りがお上手なんですね」というキミに、
「はい、小さい頃からずいぶん踊りましたから。 あの踊り場で・・・」 と僕はニッコリと答えた。


今もあの踊り場で、時に父が気まぐれで蓄音機を鳴らし、母とゆったりワルツを踊っているに違いないと僕は思うんだ。