イワシ食堂通信(仮題) その2


その1 http://d.hatena.ne.jp/COLOC/20080123/1201091359 の続きです。

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一方、彼女のいる世界をこちらとするならば、むこうの世界でも波紋が広がっていた。


町の広場で、一羽のペンギンが腕をパタパタさせて必死に皆に話しかけていた。
「確かにあの冷蔵庫の奥が開いて、人間の女の子がそれはもうコワイ顔をしてこちらをにらんでいたんだ」
「ほんとうかなあ、ポジルはときどきいいかげんなこというからなあ」 と、同じくペンギンだが白と黒の配色が通常とは逆のペンギンがいう。
「本当なんだってネガル」
どうやらこのペンギンたちは一見普通のペンギンがポジルで、白と黒のガラが逆になっているのがネガルという名前らしい。
「ワシはポジルのいうことを信じるでさ。ポジルはそんなウソを言うような子じゃないし、この世界が別の世界につながっていても何の不思議なこともないからなあ」 と大きなリクガメのジョンじいさんがもそりという。
「ジョンじいがいうことはいつも正しいから、きっとそうなんでしょう」 と白ウサギのホワラがポジルの方をちらりと見ると、「まあそうなんでしょうね」 と黒ウサギのブララもポジルを援護した。
「そうなんですよ、そうなんですよ」 とポジルがうんうんと大げさにうなずき、ネガルは<ちぇっ>って顔をした。


「まあ問題は、この冷蔵庫は不思議な食料を運んでくれる魔法の冷蔵庫ではなかったってことかな」
「あの日、冷蔵庫が空からこの中央広場のど真ん中に落ちてきて、冷蔵庫を開けるごとに何やら美味しそうなものが補充されていて、みんなで勝手に美味しく頂いていたけれど、それはむこうの世界のその女の子の食料だったということかしら」
「その人間の女の子にしてみりゃあ、大事な食べ物取られてたんだから、コワイ顔にもなろうもんさのう」
「食べ物のうらみは恐いっていうからねえ」 とネガルがいったところで、みんなが「うーん・・・」 とうなった。
だって、みんな食べちゃった人たちだからだ。


「とりあえずじゃ」 とジョンじいが口を開いた。
「ポジルや、お前、みんなを代表して、その子にあやまっておくれ」
「えーっ! なんで、ボクがさーっ!」 とポジルが飛び上がる。
「その子に会ったのはポジルだけだからさあ」 とネガル。
「そうそう、ヨロシクたのむよ」 とホワラとブララもちょろっと頭を下げた。
「いやだよ、鬼のようににらんでたんだよ・・・」 とポジルはもう泣きそうになっている。
「それじゃあ、その子に手紙をかくんじゃな。 その手紙を冷蔵庫に入れておくといつかその子が読んでくれるじゃろう」
「それは名案!」、「さすがジョンじい!」 ともりあがったところで、「じゃあポジルよろしくねー」 とみんなそそくさと帰って行こうとする。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと。 だめだよ、ボクは昔から作文が苦手だったんだよ」
「たしかネガルは得意だったわね〜」 と遠くからホワラにいわれて、ぎょっとしたネガルだった。


しかしその時既に広場には、白黒のポジルと黒白のネガルと白白の冷蔵庫が兄弟のように立ちつくしているだけでした。

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つづく(かもしれない・・・)