★ずるい兄


玄関を開けるとそこには兄が居た。


「よお、ひさしぶり」と漂々とした顔で私に微笑みかける。
「ほんま、ごっつ、ひさしぶりやねえ」と兄を中へ招き入れた。
「どない? 元気にしてんの?」ふわりとソファに座り、兄がいう。
「そっちこそ、どうなん?」
「いやあ、どうってこともないし。 退屈で死にそうな感じやわ」 といい、頭をくしゃくしゃとかく癖は昔のままだ。
「お前もまあ、元気そうやけど、やっぱ年くったなあ。 すっかりお前の方が姉さんっぽくなってしもたなあ」 と嫌なことをいう。
兄の姿は昔と全く変わらずに、悔しいほど若く、ひょろりとしている。
「そらまあ、それなり時間は流れるからなあ」
「お前、そろそろ結婚でもせーへんのか」 とまた嫌なことをいう。
「まあ、そのうちな。 相手はなんぼでもおんねん」
「なんぼでもおるかあ、そらあええわ」 兄は嬉しそうに笑った。
「まあせめてお前が落ち着いて、孫の顔でもおとん、おかんに見せてやってくれたら、おれはそれでもう安心なんやけどなあ」
「ずるいなあ」というと「いやあ、すまんすまん」 と兄はひょうきんに頭を下げた。
「まあ、明日、よろしう頼むわ。 また叔父さんが酒飲んで陽気にやってくれるやろう。」 そういって兄はソファから腰を上げた。
「そんじゃ明日」
「うんまた明日」そういって兄は帰っていった。


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明日は兄の十三回忌。 残念なほどに時間の流れは早い。