「手にトロイの木馬・・・」 回文ストーリー


“これ以上、奴らの無秩序、無意味な攻撃には耐えられない”


“トロイ”と名付けられたこの小さな木馬型兵器は、ボクたち種族の最後の頼みの綱であった。
ボクは父さんから託されたこの木馬を敵の陣内に送り込まねばならない。 そうすれば、その後はこの木馬に秘められた力が何とかしてくれるのだ。


そうして重大なミッションを背負ったボクは、木馬を携えて我らのコロニーをあとにした。 そして不眠不休で鬱蒼とした森を抜け、三度目の夜が明けた。夜明けとともに、この世界に分け隔てない陽の光が降り注がれた。
そうして活力に満ちたエネルギーがボクの全身に送られるものの、もうボクの足はもう動こうとしない。


ボクは地面にあおむけに倒れこんだまま、手にした木馬を空に掲げてみた。
白い木馬は、青空に浮かぶ巨大空母のようにどっしりと構えた雲と似て、どこまでも白い。


木馬と雲とが同化して見えたその瞬間、木馬は意識を込められたかのようにドクっと脈打ったかと思うと僕の手を離れ、ゆっくりと空を駆け上がりだした。
颯爽としたその姿は、ボクの目には木馬がペガサスのような白い翼をはためかせているように映った。
上空に達した木馬は、敵の砦の方角をめざし速度を上げて天空を駆けだした。
すっかり疲れきったボクはただその姿を見送るしかなく、やがて意識が遠のいてしまった。


どれくらいの時間が経っただろうか、“ずしん”とも“ずどん”ともいうような鈍い地面の揺れでボクは目を覚ました。
そしてヨロヨロと立ち上がった僕が見たのは、朝焼けでも夕焼けでもなく真っ赤に染まった敵の砦の方角の空であった。



『手にトロイの木馬、雲の色と似て 』


(→テニトロイノモクバクモノイロトニテ )
( テニトロイノモクバクモノイロトニテ←)