イワシ食堂通信(仮題) その3



その1 http://d.hatena.ne.jp/COLOC/20080123/1201091359 
その2 http://d.hatena.ne.jp/COLOC/20081109/1226211441 の続きです。

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ひさしぶりにさわやかに目覚めた朝、私はいつものように牛乳を飲もうと冷蔵庫をあけた。


はらり・・・
一枚の紙切れが私の足もとに落ちた。 
“ん?”
ひろいあげて見てみると、何やら意味不明の文字が書きなぐられている。
“なんだこれ?”
幼稚園児のらくがきに見えないこともないが、文字は整っている。 でもその文字はひらがなでもカタカナでもハングル文字でもない。
“みたことない文字だわ”
しばらくの間、その文字とも落書きともつかぬ紙切れをながめていたが、冷蔵庫の “はやくドアをしめなさい!” というアラーム音にふと我に返り、牛乳を持ってあわててドアをしめた。


牛乳とその紙切れをテーブルの上に置いたとき、私はその紙の裏面を初めて見た。
そこには頭を下げたペンギンのらくがきがあった。 
その姿は、道路工事現場などで “ごめいわくをおかけします” とあやまっているオジサンのイラストを思い出させた。
ただ、そのペンギンは “でへへ” って顔をして頭を下げていたのだった。
“あーっ、この“でへへ顔”には見おぼえあるぞ。 イワシ丸干しを持って直立して固まってたあいつだ
とりあえず私はグラスの牛乳をゴクリと一気に飲みほした。
やっぱりあの冷蔵庫はペンギンの世界とつながっているのよね。
このイラストからするとおわびの手紙なのかしら? いちおう。
でもこの “でへへ顔” ちょっとバカにされてる気分になるのよ・・・。


私はふたたび冷蔵庫のドアを開けてみた。
おもむろに冷蔵庫の奥の壁を押してみる。 しかし、開かない。 “あたりまえか・・・”
念のために私は冷蔵庫の中のあちこちを押しまくってみた。 どこかに奥の壁が開くボタンがあるんじゃないかしら?と思って。
しかし、そんなものはどこにもない。 あたりまえだ。この冷蔵庫、近所の家電量販店の歳末大安売り、現品限りで買ったごく普通の物なのだから・・・
冷蔵庫のアラーム音がうるさいので、そろそろ・・・と思った時だった。


“カチリ・・・”


なんと、その冷蔵庫の背面がふたたびゆっくりと開いたのだった。
そして私はあのペンギンと運命の再会をした。
彼もまさか最初から私が顔を出しているとは想定外だったようで、「ピャッ!」とこの前のような声をあげて目をパチクリさせている。
そしてまた、 “デヘヘ” って顔をしてゆっくりと奥のドアを閉めようとしたので、私は 「待って!」 と冷蔵庫に顔を突っ込んで彼の手をつかんだ。
「ピエーッ、ペペペ!!!」
いきなりつかまれた彼はパニック状態で逃げようとする。 私もつかんだ手を必死で離すまいとする。
冷蔵庫内の牛乳は揺れる、プリンも揺れる、ポン酢も揺れるともう大騒ぎ。
「ピエーッ、ペペペッ、ピエーッ、ペペペッ!!!」
予想に反して、意外に彼の力は強かった。
逃げようとする彼は必死で私のつかんだ手をぐいっと引っ張ったその瞬間だった。


“スポ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン・・・・”


私の体から重力が消えた。
「えっ?」 と私、「ピエッ?」 と彼。
何やら世界の空気が変わった・・・


かくして私は、冷蔵庫の向こう側の世界へ乱入することとなったのでした。

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つづく(次回は不明・・・)