★シンクの神様


仕事に行き詰まった。 もうこれっぽちもまともなアイデアが思い浮かばない!
私はおもむろに立ち上がり台所に向かった。
そしていつものようにシンクを磨き始める。 こうすることで何かがつかめる時がある。
創作なんてそんなものだ。
ナイロンたわしで意地になってこする。ステンレスの金属臭が鼻腔をかすめる。
そしてやがて鏡の用に光るシンク・・・ やれやれと思った瞬間に、そのシンクに何かが写った。


「感心感心、良い心がけじゃ」 と怪しい仙人風な老人がそこにいた。
「そんなあなたにステキなご褒美じゃ。 では金の福袋と銀の福袋どちらが良いかのう」 とニコニコと私の顔を見ながら言う。
なんだこいつ・・・と思いながらも、
「ええっと、それじゃあ銀の方の福袋で・・・」 とあつかましく要求してみた。
すると老人は私には見えない横にいる誰かとぼそぼそと話をして、芝居がかったように大げさに驚いてからこう言った。
「残念ながら、今日は銀の福袋はないらしいんじゃのう。 すまんすまん」
私は少しムッとして「それじゃあ、金の福袋をお願いします」
するとまた老人は私には見えない横にいるだれかとぼそぼそと話をして、さらに芝居がかったように大げさに驚いてからこう言った。
「なんと! 金も銀も好評、品切れらしいわ、あはははは・・・」
そしてその乾いた笑いとともに老人はシンクに写る視界から消えた・・・


むかっ! 逃げやがった!