ガラパゴスの湯


ややにごりのある深く濃い緑…
商店街の福引の5等の入浴剤はお湯に溶かすとなんだか不思議な色合いだった。
あらためて袋を見てみる。
『秘境温泉シリーズ ガラパゴスの湯』
なるほどガラパゴスか…と思ったが、ガラパゴス諸島に温泉はあるのか?
まあそれはそれとして、さて入ろうとすると湯気のむこう、何やらこの狭いユニットバスに先客がいる。
「あ、どうもお先です。うふふ」
どうみてもペンギンだ。しかもタオルを頭にのせてくつろいでいる。
「ああ、どうも」とつられてぼくがこたえる。
ガラパゴスの湯へようこそ。わたしは見てのとおりのガラパゴスペンギンです。あえて略すとガラペンですね。ガラガラのペッじゃないですよ。うふふ」
そのガラペンとやらが楽しそうに笑っている。
「あっちの島も毎日観光客がぞろぞろやってくるんでせわしなくって。 それこそのんびり羽根ものばせないんです。ああ、でもわたしのは羽根というよりフリッパーってやつなんですけど。うふふ」
わりとよくしゃべるやつだなあ。おまえ。
「やっぱり、日々の疲れには温泉ですよねえ。うふふ」
そう言いながら彼は、頭にのせたタオルをしぼったり、前足をパタパタさせたりしながらすっかりくつろいでいた。
すると突然、
ガラパゴス ク〜イズ♪」と彼が叫んだ。
「第1問。ガラパゴス諸島はどこの国の島でしょうか?」
「え〜っ… 南米だよなあ? アルゼンチン?」
「ぶぶ〜っ。正解はエクアドルです。 もう常識です。うふふ」
「第2問。ガラパゴス諸島にはいくつの島があるのでしょうか?」
「え〜っ… 5つぐらいじゃないの?」
「ぶぶ〜っ。正解は19です。 ちなみにわたしがいるのはイサベラ島です。うふふ」
「最終問題です。正解するといっきにポイントが5倍になります。うふふ」
ポイントって何だよ…
ガラパゴスとはもともとどういう意味でしょうか?」
「・・・・・・・・・」
「ぶぶ〜っ。正解はゾウガメという意味です。 もうぜんぜんだめですねえ。うふふ」


それでも彼はいたって楽しそうだった。
「今度は友達も連れてきてもいいですか? ゾウガメのジョージっていうんですけど。友達がいなくってさびしそうなんですよね。うふふ」
「こうなったら、ゾウガメでもゾウアザラシでも」
「いえ、ゾウアザラシくんはいないですねえ、ガラパゴスアシカくんやガラパゴスオットセイくんはいますけど。うふふ」


「さて、それではまた来ますね。うふふ」
そういって彼はぺこりと頭を下げて、ざぶんと湯船に沈んでいった。


さっきまで彼の頭に乗っていた小さなタオルがぷかぷかと浮いていた。